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ことばでたどる平成

働き方改革の平成30年 

働き方改革

働き方を見直す取組みのこと。国が進める政策レベルのものも、企業での取組みも、広く「働き方改革」と呼ばれる。しかし、これは労働者のためになるのだろうか? 当初は政策レベルの検討事項として、(1)同一労働同一賃金、(2)賃金引上げ、(3)長時間労働の是正、(4)転職・再就職支援や職業訓練、(5)テレワークや副業・兼業など柔軟な働き方、(6)女性・若者が活躍しやすい環境づくり、(7)高齢者の就業促進、(8)病気の治療、子育てや介護と仕事の両立、(9)外国人材の受け入れなどが取組み事項に掲げられた。ただ、2016年9月下旬に大手広告代理店電通での新入社員の過労自死事件が明るみに出てからは、長時間労働是正が最も大きな論点になった感がある。有識者会議での議論などを経て、時間外労働に規制をかけることなどの方向性が決まったが一方で、労働時間の制限を撤廃する高度プロフェッショナル制度も盛り込まれてしまった。審議のプロセスでもデータに不適切な点が見つかるなど迷走した。
企業でも取組みが始まっている。テレワークの推進、残業削減手当、強制退社時間の設定、勤務間インターバル規制などだ。もっとも、仕事の絶対量や役割分担など根本的な部分を見直さなければ、単なる労働強化になる可能性もある。企業の取組みの中にはIR、PR目的の取組みになっているものも散見される。労働者を救う取組みになっているのか。本質のみきわめが必要だ。

米朝首脳会談

2018年6月12日、史上初の米朝首脳会談がシンガポールで開催された。北朝鮮側が韓国を通じてアメリカへ対話の意向を伝えたところ、3月8日にトランプ大統領が金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長との会談の意思を表明したことを受けたもの。両首脳は包括的な共同声明に署名し、トランプ大統領が北朝鮮に安全の保証を約束する一方、金国務委員長は朝鮮半島の「完全な非核化」に取り組むことを確認。また、(1)新たな米朝関係の構築、(2)朝鮮半島に永続的で安定的な平和体制を構築するための努力、(3)北朝鮮が朝鮮半島の完全な非核化に取り組むとした板門店(パンムンジョム)宣言の再確認、(4)戦争捕虜や行方不明兵の遺骨の回収への尽力が約束されたほか、ポンペオ国務長官と北朝鮮高官による協議を早急に開始することにも合意。米朝首脳による初めての合意にもかかわらず、相互の不信感は根強く膠着状態に。両首脳は事態の打開を図るべく、2回目の会談開催を模索した。

フィルター・バブル

ある人が検索エンジンやSNSなどに慣れ親しむと、それらのサービスはその人向けの情報を取捨選択して提示するようになる。それを繰り返すうちに、技術がフィルタリングしてくれた情報だけでできた泡のドームのような世界の中で生きることになることを指す。イーライ・パリサーが2011年に出版した同名の本の中で生み出した言葉。メディアが人々を取り囲んでそれまでにない情報環境をつくり上げることについては、1970年代の中野収による「カプセル人間」(だれかと一緒にいてもマンガなど自分のカプセルに入ってしまう若者)や、00年代の羽渕一代による「テレコクーン」(電話をする2人の親密な空間)などの概念と部分的に重なる。
インターネットのインフラレベルの特性を言い当てたこの用語は、ブレグジット(イギリスのEU離脱)、トランプ大統領誕生など多くの人が驚くような事態や、世論の深刻な断絶の理由の一端を説明し得る。

仮想通貨

インターネット上で通貨と類似の機能を果たすもの。代表的なものがビットコインで、偽造や二重払いは、暗号を使ったブロックチェーンと呼ばれる技術を使って、参加者の間で共有される帳簿(分散型帳簿)に取引を書き込み、相互承認することで防止されている。そこには国家の裏付けや特定の機関による管理はない。取引所で各国通貨に交換することができる。国境を越えて自由に取引もでき、送金手数料も低く、電子商取引を拡大させる可能性があるといわれてきたが、ブロックチェーンの承認に必要なコンピューターの演算処理に大量の電力が消費されていることから、実際にかかっているコストは小さくない。一方で、従来の通貨に比べて発行量が少ないことなどから価値が不安定で、現状では支払手段としてよりも、投機の対象としての資産といった色彩が強く、暗号通貨、暗号資産という呼び方もある。ビットコインは、取引急増への対応策をめぐる対立から2017年8月に分裂し、新たにビットコインキャッシュ(BCH)が誕生し、その後も分裂を繰り返している。仮想通貨にはほかにも、リップル、イーサリアムなど、さまざまなものが存在する。取引の匿名性が高いため、違法取引や資金洗浄の温床にもなりかねず、各国は規制強化に動いている。

ブラック校則

不合理な拘束やルールを「ブラック校則」と呼び、見直しを求める運動がインターネット上で広まった。きっかけとなったのは、「生まれつき茶色の髪を学校から黒く染めるよう強要されたことで精神的苦痛を受けた」として、大阪府立高校3年の女子生徒が府に対し損害賠償訴訟を起こしたことだ。「ブラック校則をなくそうプロジェクト」が事例を募集したところ、「『くせ毛届』の提出」、「カーディガン禁止」や「下着は白のみ」などの校則の情報が寄せられたという(『朝日新聞』2017年12月28日)。校則まではいかなくとも、珍妙な独自ルールがある学校は少なくない。例えば東京都では都立高校の約6割が、生徒の頭髪が生まれつきのものかどうかを見分けるため、入学時に一部の生徒に地毛証明書を提出させている。学校側の責任回避のため、インフルエンザに感染して休んでいた子どもが再登校する際、登校許可書とか治癒証明書という名称の医師の証明書提出を求める自治体が全国20の政令指定都市と東京23区のうち4割(『朝日新聞』18年3月25日)。あきれたのは、小学校で増えている「あだ名禁止」や「さん付けの強要」だ。「いじめ防止」や「ケンカ防止」のためだという(『NEWSポストセブン』18年5月15日)。髪型や言動の変化は、子どもが発する重要なメッセージだ。子どもを縛ってメッセージを発するチャンスを奪えば、子どもがおとなとの関係性を結ぶ機会をつぶしてしまう。

#MeToo

2017年10月5日、『ニューヨーク・タイムズ』紙は『パルプ・フィクション』や『ロード・オブ・ザ・リング』などで有名なハリウッドの大物映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが、数十年にわたってセクシュアルハラスメントや性的暴行を働いていたことをすっぱ抜いた。『ニューヨーカー』誌も追撃する。これと相前後して、女優のアリッサ・ミラノがツイッターでワインスタインから性的被害を受けた女性たちに声をあげるようにと促し、その際にハッシュタグ「#MeToo」を用いた。これが引き金となってインターネット上にはワインスタインだけではなく、男優ケビン・スペイシー、写真家アラーキーこと荒木経惟、韓国忠清南道知事の安熙正など、世界各地の男性著名人が、セクハラなどを受けた女性のネット上での告発を受けた。『タイム』誌は17年度の「今年の人」としてこのムーブメントを起こした女性たちを選んだ。
ツイッターなどSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)は、これまで声をあげられなかった女性たちに機会を与え、連帯を促し、グローバルな展開を可能にした。マスメディア時代にはとうてい考えられない現象である。一方で、魔女狩りだ、逆差別だなどの声が男性からあがり始める。『ニューヨーク・タイムズ』紙と『ニューヨーカー』誌は一連の報道で、18年のピュリッツァー賞を公共部門で受賞する。しかし#MeToo運動を推進したリーダー格女性による男性へのセクハラ、性的暴行などが発覚し、状況は混沌としてきた。背後にはジェンダーに関わる根深い暴力と、炎上しがちなSNSコミュニケーションの特性などが入り組んで存在している。

君たちはどう生きるか

吉野源三郎による青少年向け小説。1937年刊行。80年後の2017年、同作を原作にした羽賀翔一による『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)が刊行されて200万部を超えるベストセラーとなった。原作は主人公がさまざまな困難を克服しながら成長していく教養小説(ビルドゥングスロマン)の古典として評価が高く、戦後も長く読み継がれてきたが、漫画版のヒットにより再び注目されることとなった。物語ではいじめや貧困、格差など、現代にも通じるさまざまな問題が取り上げられている。また、原作は日本が大正デモクラシーから軍国主義化し、日中戦争・アジア太平洋戦争へと入っていく時代に書かれ、時代状況が現代と重なるという指摘もある。宮崎駿監督が『君たちはどう生きるか』というタイトルで長編アニメの製作再開を発表し、小説版、漫画版とともに関心を集める。小説版は最初、山本有三編纂の『日本少国民文庫』(新潮社)の最終刊として企画されたが、山本のすすめもあって同文庫編集主任だった吉野が書いた。同書刊行後、吉野は岩波書店に移り、38年、『岩波新書』を創刊。戦後は雑誌『世界』の初代編集長に就いた。

ボーッと生きてんじゃねーよ!

NHKが、らしくなく生み出した2.5頭身のおかっぱ頭のCGキャラ、チコちゃん。5歳の女の子という設定だ。『チコちゃんに叱られる』(毎週金曜午後7時57分~/再放送:毎週土曜午前8時15分~)という雑学バラエティーで大ブレーク中。声を担当するのはキム兄こと木村祐一で、絶妙の受け答えは芸人の間なのだ。「サッカーはなぜ手を使っちゃいけないの?」といった、日常で当たり前と思って深く考えたことがない質問に、MCの岡村隆史(ナインティナイン)はじめ、ゲストで呼ばれた大人たちが、あいまいな回答をすると、チコちゃんに、表記の言葉で叱られる。叱られることが好きなのか、これにはまる人が続出、高視聴率をたたき出している。しかも、土曜の再放送のほうが視聴率が高いという珍現象も起きている。

そだねー

平昌(ピョンチャン)オリンピックでは、カーリング女子代表チーム・LS北見(本橋麻里/鈴木夕湖/吉田夕梨花/吉田知那美/藤澤五月)が銅メダルを獲得。同競技におけるオリンピックでのメダル獲得は男女通じて初めてとなった。特に話題になったのは、彼女たちが試合中に明るく意思疎通を図る様子。「そだねー」(北海道弁で「そうだね」の意味)の言葉の掛合いも話題になった。また試合中盤に設けられた休憩・軽食の時間は、ファンの間でもぐもぐタイムと呼ばれるように。NHKがこの部分の中継をカットしたため抗議の声があがる一幕もあった。さらに選手が食べていた地元北見の名菓であるチーズケーキ「赤いサイロ」は高額転売が問題になるほどの人気商品となった。2018年3月21日には地元で祝賀パレードもあり約1万2000人が詰めかけている。なお海外選手では韓国のキム・ウンジョンがメガネ先輩との愛称で話題になった。

おっさんずラブ

2018年4~6月にテレビ朝日系で放送されたテレビドラマ。33歳の「おっさん」春田創一(田中圭)が、春田への想いをもつ「おっさん上司」黒澤武蔵(吉田鋼太郎)と、同居している後輩・牧凌太(林遣都)との間で生まれる純愛を描いたラブコメディ作品。女性3人のプロデューサーが手掛けた作品で、世の中が規定するありきたりな男女の恋愛観を揺さぶりつつ、ピュアな恋愛群像を男のみで描くことにより、その自由な恋愛観を全面に打ち出した。男同士の恋愛を特異に描くのではなく、それを普遍的に描くことの新しさがヒットにつながった。主演を務めた田中圭が突然のブレイク、過去に出していた写真集が重版されるなどの事態に。いわゆるバイプレーヤー(脇役)と呼ばれてきた人たちが、当たり役でたちまちはやるというケースが増えてきている。

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